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小袖高尾

小袖高尾
子持高尾と仙台高尾と駄染(だぞめ)高尾と、ここに語る小袖高尾のあとさきは、判然しないままに書きとめておく。とにかく京町の、三浦屋の抱え娼妓であったことだけは、紛れもない。今でも芸者のハンカチなどを愛惜おかざる手合がある様子だが、昔も同じで、高尾と二三度馴染(なじ)んだ一遊蕩児が、高尾の着ている小袖をまきあげようという大それた望みを起した。欲しいものはくれというほかに、方法がないに拘わらず、この蕩児はくれといっても、高尾がくれないことをよく承知していたので、高尾のもとへ日頃出入りする太鼓医者の東庵に向って「なんとか名案はあるまいか」と談合した。東庵は横手を打ち、扇子をサッとひらいて、耳に口をよせ、二人の間に手筈が成立った。二三日して、十五日の紋日に、いつもの揚屋長兵衛方から高尾大夫を招き、東庵は客と高尾との献酬をしきりに斡旋した。客が、「昨夜の酒が、頭に残っているから」と辞退するのを抑えつけて、東庵は酌をした。その都度盃の酒がこぼれて、客の膝を濡らした。高尾は元来非常に物静かな女であったから、東庵と客が不自然にはしゃぐ様子を、興ざめ顔にながめていた。東庵は次第にテレてきたが、しかし乗りかかった船で、「ヤ、大層お召物が汚れましたな。これはとても召されますまい。大夫どのの小袖を一枚進ぜられませ」と切出すと高尾は落ちついて、鴇母(やりて)の万に命じ、宿から小袖の風呂敷包を取寄せた。それをひらくと、中から女物の浅黄の下着でなく、黒羽二重の石持(こくもち)のついた男物二枚襲(がさね)の小袖が、トロリと現れた。高尾は、客と東庵を七分三分の尻目にかけ、「あの、これを着替えなんし」と顎(あご)を軽くしゃくられたので、二人とも冷汗を流して降参した。


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2008年05月12日 01:24に投稿されたエントリーのページです。

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